著者紹介
手元供養専門店|創業2000年
手元供養の専門店として25年。遺骨の供養に関するさまざまなご相談をいただくなかで、散骨についてのお問い合わせも多くあります。その経験をもとに、都道府県ごとの散骨のルールについて詳しくお伝えします。
「自分の住んでいる県で散骨してもいいのか」「〇〇県にはルールがあるのか」。こうした疑問を持つ方は少なくありません。
先に結論を書きます。散骨を規制する条例は、少なくとも現時点で確認されている範囲では、都道府県単位のものは見当たりません。これまでに作られてきたのは、すべて市区町村が独自に定めているものです。しかも、その数は全国でも16市町村(条例)にとどまり、これに要綱・指針レベルのものを加えても17自治体です。つまり、ほとんどの都道府県では「その県ならではのルール」は特に存在せず、全国共通の考え方がそのまま当てはまります。
この記事では、実際に条例のある9つの県と、それ以外の38都道府県について、地方自治研究機構が公表している最新の情報をもとに整理します。より詳しい法的根拠は海洋散骨は違法?日本の法律・ガイドライン・必要な許可を解説でも扱っています。
まず、全国共通のルール
都道府県による違いの前に、日本全国どこでも共通する土台を確認しておきます。散骨を直接禁止する法律はありません。墓地埋葬法が規制するのは土に埋める「埋蔵」で、地表や海に撒く行為はこれにあたりません。刑法190条についても、節度をもって行われる限り問題視されてこなかった、というのが実務上の理解です。ただし、厚生労働省も法務省も、これを認める公式な文書を出したことはなく、法律上「合法」と明言されているわけではありません。
この全国共通のルールに加えて、一部の市区町村だけが、独自の条例を上乗せしています。次の章で、その9県を具体的に見ていきます。
散骨条例がある9つの県
該当する自治体とその内容です。
| 都道府県 | 市町村 | 規制の種類 |
|---|---|---|
| 北海道 | 長沼町 | 散骨を全面禁止 |
| 北海道 | 岩見沢市 | 散骨場の許可制+原則禁止(届出で可) |
| 宮城県 | 松島町 | 散骨を全面禁止 |
| 埼玉県 | 秩父市 | 原則禁止(届出で可) |
| 埼玉県 | 本庄市 | 散骨場の許可制 |
| 長野県 | 諏訪市 | 散骨場の許可制 |
| 静岡県 | 御殿場市 | 散骨場の許可制 |
| 静岡県 | 熱海市 | 散骨場の許可制(海洋散骨は別途ガイドライン) |
| 静岡県 | 伊東市 | 散骨場の許可制(海洋散骨は別途指針) |
| 静岡県 | 三島市 | 散骨場の許可制 |
| 神奈川県 | 湯河原町 | 散骨場の許可制 |
| 神奈川県 | 箱根町 | 散骨場の許可制 |
| 神奈川県 | 三浦市 | 散骨場の許可制+公共水域での散骨禁止 |
| 愛媛県 | 愛南町 | 散骨場の許可制 |
| 鹿児島県 | 伊佐市 | 原則禁止(承認で可) |
| 熊本県 | 南阿蘇村 | 散骨を全面禁止 |
「散骨場の許可制」というのは、山や陸地に散骨のための施設を作って事業を営む場合の話です。個人が自分の土地で散骨する行為そのものを禁じているのは、長沼町・松島町・南阿蘇村の3町村だけです。同じ「原則禁止」型でも、秩父市は届出のみで罰則規定を置いていないのに対し、伊佐市は市長の承認が必要なうえ罰則規定も置いており、条例ごとに厳しさが異なります。静岡県に4市が集中しているのは、後述するように、この地域で実際に散骨施設をめぐるトラブルが相次いだ経緯があります。個人で散骨する場合の注意点は散骨は自分でできる?山と海、それぞれの方法・費用・注意点を解説でも詳しく解説しています。
「散骨場の許可制」に分類される10自治体(諏訪市・御殿場市・本庄市・湯河原町・熱海市・箱根町・伊東市・三島市・愛南町・三浦市)を実際に比べてみると、細かい条文は違っても、進み方はどこも似た形になっています。まず市長や町長の許可を取ること。その前段階として、近隣住民向けの説明会を開き、隣の土地を持つ人たちの同意を集め、行政と事前にすり合わせておくこと。これらを済ませないまま事業を始めれば、行政は状況を調べたり現地に立ち入ったりでき、それでも改善されなければ、勧告、命令、最後は許可の取り消しや公表という形で段階的に強く出てくる仕組みです。いきなり罰金や懲役という話にはならず、まずは行政指導で正すというのが、この10自治体に共通する基本設計です。
条例ではなく要綱レベルのものとしては、北海道七飯町が2006年に「葬法に関する要綱」を定めており、法律の想定していない葬法(散骨など)を行う事業者に対し、地域住民への説明会の開催を求めています。これを含めると、北海道は長沼町・岩見沢市・七飯町の3自治体が該当することになります。
もう一つ、あまり知られていない規制があります。静岡県熱海市は、散骨場専用の条例とは別に「熱海市まちづくり条例」も持っており、2014年8月の規則改正で、散骨場の設置がこの条例のいう「開発事業」に加えられました。つまり熱海市で散骨場を作る場合、散骨場条例とまちづくり条例の、2つの手続きを踏む必要があります。神奈川県鎌倉市にも、散骨場そのものを対象にした条例はありませんが、「鎌倉市特定土地利用における手続及び基準等に関する条例」(2012年施行)の対象に、焼骨の粉末を地表に散布する区域の設置が含まれており、散骨場を作る際はこの条例の手続きが必要になります。散骨場を専門に規制する条例を持つ自治体だけがすべてではない、という点は覚えておいて損はありません。
神奈川県内では、横浜市も公式サイトで散骨に触れています。現行法上、許可の手続きは必要ないとしたうえで、厚生労働省の散骨事業者向けガイドラインに沿って、場所や関係者、自然環境への配慮を求める内容です。条例のような強制力はありませんが、東京都と同じく、大都市がそれぞれ独自に案内を出している例といえます。
なお、静岡県熱海市と伊東市は、この散骨場条例とは別に、海洋散骨(船を使って海に撒く場合)についても独自のガイドライン・指針を設けています。熱海市は市内の陸地(初島含む)から10km以上、伊東市は陸地から6海里(約11.11km)以内を避けるよう求めています。
なぜ都道府県ではなく市区町村が規制するのか
そもそも、なぜ国が一律に法律で定めず、市区町村ごとの条例に委ねられているのでしょうか。この点は、旧厚生省が設置した「これからの墓地等の在り方を考える懇談会」が平成10年6月にまとめた報告書で、すでに整理されています。
この報告書の考え方はこうです。散骨する自由を尊重するとしても、無制限に認めていいわけではない。かといって、全国一律の法律で細かく縛るのも実情に合わない。葬送のやり方は土地ごとに違いが大きいうえ、墓地や埋葬に関する規制はもともと国ではなく地方自治体の仕事(自治事務)と位置づけられている。だから、それぞれの地域の事情に応じて、市区町村が条例で個別に判断すればよい——という筋道です。都道府県ではなく市区町村単位で条例が作られてきたのは、偶然の積み重ねではなく、国がそう位置づけてきた結果ということになります。
ただし、国として散骨の定義や規制の基準(準則)を示すことも「考えられる」としていましたが、令和3年にまとめられた厚生労働科学特別研究の報告書でも、全国統一的な法規制については「まだ準備が整っていない」として見送られています。かわりに、自治体・事業者向けのガイドラインの考え方を提案するにとどめています。
条例ができた理由
これらの条例は、いずれも唐突に作られたものではありません。共通しているのは、実際に地域でトラブルが起きたことがきっかけだという点です。
わが国で最初にできた長沼町の条例は、事業者が町内で樹木葬(散骨方式)の森林公園を計画したことに、地域住民が反対運動を起こしたのが発端です。秩父市も同様に、民間業者が散骨場を作ろうとしたことへの強い住民の反対から生まれました。熱海市は、散骨場の設置計画に反対署名が集まったことがきっかけです。松島町は、カキ養殖業への風評被害を懸念しての制定とされています。
つまり、条例がある県は「散骨に厳しい県」というより、「過去に散骨をめぐる摩擦が実際に起きた地域」と捉えるのが正確です。逆に言えば、条例がない38都道府県は、これまでのところ、そうした摩擦が表面化していない地域、ということになります。
なお、こうした条例が憲法の保障する「葬送の自由」に反しないかという議論も、法学の分野でなされています。近畿大学大学院法務研究科の田近肇教授(憲法学)は、散骨場の経営を許可制にするタイプの条例(諏訪市や熱海市など)について、お墓の経営を許可制にしている既存の仕組みと大差がないため、憲法違反にはあたらないだろうという立場を取っています。一方で、長沼町のように、場所や方法を問わず散骨という行為そのものを一律に禁じる条例については、行き過ぎではないかと疑問を投げかけています。この整理を裏返すと、規制の対象や条件を具体的に絞り込んだ形であれば、散骨という行為そのものを規制する条例であっても、憲法上は許される余地がある、という考え方になります。
条例がない都道府県(38都道府県)
以下の都道府県には、地方自治研究機構が確認した範囲で、散骨を規制する独自の条例は見当たりません。全国共通のルール(節度をもって行う限り、法律上問題視されてこなかった)がそのまま当てはまります。
北海道・東北
青森県、岩手県、秋田県、山形県、福島県。北海道内でも、長沼町・岩見沢市・七飯町以外の市町村には条例・要綱は確認されていません。
関東
茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都。神奈川県・埼玉県には該当自治体がありますが、それ以外のこの5都県には条例が見当たりません。千葉県で散骨を検討している場合も、特別な地域ルールを心配する必要は基本的にありません。
東京都は、条例こそありませんが、保健医療局のサイトで散骨に関する見解を公式に示しています。国の立場(墓地埋葬法に禁止規定はなく、国民の意識の動向を見守る必要がある)をそのまま紹介したうえで、法による手続きはないとしつつ、念のため地元の自治体に確認することを勧める内容です。条例のような拘束力はありませんが、都として公式な文書を出している点は他の道府県にあまり見られない対応です。
中部
新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、岐阜県、愛知県。長野県・静岡県には該当自治体がありますが、それ以外のこの7県には条例が見当たりません。
近畿
三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県。近畿地方には、条例のある自治体は一つも確認されていません。
中国
鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県。中国地方にも、条例のある自治体は確認されていません。
四国
徳島県、香川県、高知県。愛媛県には該当自治体(愛南町)がありますが、それ以外のこの3県には条例が見当たりません。
九州・沖縄
福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、宮崎県、沖縄県。鹿児島県・熊本県には該当自治体がありますが、それ以外のこの6県には条例が見当たりません。
条例がなくても、確認しておきたいこと
条例がないからといって、どこで何をしてもいいわけではありません。次の点は、条例の有無にかかわらず、全国共通で守る必要があります。
- 他人の土地に無断で立ち入って散骨しない(民法上の所有権の問題)
- 海水浴場・漁業区域・港内・航路の近くを避ける
- 遺骨は2mm以下に粉骨してから撒く
- 撒いたあとに土や落ち葉をかぶせない(墓地埋葬法違反になります)
- 自然に還らないもの(金属・プラスチック等)を一緒に撒かない
また、条例は今後も増える可能性があります。この17自治体も、実際にトラブルが起きたことをきっかけに、後から作られたものです。散骨を予定している自治体に、念のため条例の有無を問い合わせておくと確実です。業者とのトラブルや親族間のトラブルについては海洋散骨のトラブルと対処法で、海への散骨、山への散骨それぞれの注意点は、個別の記事でも詳しく解説しています。
よくある質問
Q. 都道府県ごとに散骨のルールは違いますか?
都道府県単位の条例はありません。散骨を規制する条例はすべて市区町村が定めているもので、全国でも16市町村(要綱等を含めても17自治体)にとどまります。それ以外の地域では、全国共通のルールが適用されます。
Q. 自分の県に条例があるかどうか、どう確認すればいいですか?
この記事の一覧に載っていない都道府県であれば、現時点で確認されている独自条例はありません。ただし条例は今後増える可能性もあるため、実際に散骨を予定している市区町村へ、念のため問い合わせておくと確実です。
Q. 条例がある地域では、個人の散骨も禁止されますか?
条例の種類によります。長沼町・松島町・南阿蘇村は個人の散骨行為そのものを禁止していますが、それ以外の多くの条例は「散骨場」という施設の経営を規制するもので、個人が自分の土地で散骨する行為までは規制していません。
Q. なぜ静岡県には条例のある市が4つも集中しているのですか?
偶然ではなく、実際に散骨施設の設置計画をめぐって地域住民との摩擦が相次いだことが背景にあります。御殿場市、熱海市、伊東市、三島市は、いずれも個別のトラブルをきっかけに条例が制定されています。
まとめ
散骨の条例は、都道府県ではなく市区町村が定めるもので、全国でも16市町村(要綱等を含めても17自治体)にとどまります。ほとんどの都道府県には、散骨そのものを規制する独自のルールはありません。ただし、条例がないことは「何をしてもいい」という意味ではなく、土地の所有権や粉骨のルールなど、全国共通で守るべき条件は変わりません。撒く場所が決まっている場合は、条例の有無を問わず、その自治体に一度確認しておくことをおすすめします。
この記事について
手元供養専門店|創業2000年
手元供養の専門店として25年。遺骨の供養に関するさまざまなご相談をいただくなかで、散骨についてのお問い合わせも多くあります。その経験をもとに、都道府県ごとの散骨のルールについて詳しくお伝えしています。
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